海外旅行後の下痢

海外旅行者が、旅行中もしくは帰国後に発症する急性の下痢症は
総称して「旅行者下痢症」といわれます。その主体は腸管感染症
であり、衛生環境が未整備な地域で生水などを摂取することによ
り感染するものです。旅行者がかかりやすい最もポピュラーな疾
患であり、海外の調査報告によると、発展途上国旅行者の20〜
50%が下痢を経験するとされています。

病原微生物のうち、最も検出される頻度が高い野は病原大腸菌
の一つである毒素原性大腸菌であり、これにサルモネラ、腸炎ビ
ブリオ、カンピロバクターなどが続きます。これら病原微生物は、
日本では食中毒の原因菌に分類される菌種です。コレラや細菌
性赤痢などの第2種感染症(従来の法定伝染病)が発見されるこ
ともありますが、頻度は低いです。近年は、赤痢やコレラは軽症
例が多く、病原大腸菌などとの鑑別が困難な場合も多いと報告さ
れています。

【旅行者下痢症の治療】

旅行者下痢症の治療では、原因微生物を問わず、食事制限と水
・電解質溶液の補給が重要です。軽症例では、この指導だけで治
癒に向かうことも多いですが、重症例では点滴静注による補液療
法が必要になります。この場合、経口で水分を補給する場合には、
市販されているスポーツ飲料を、煮沸した水で薄めて用いると良
いといわれています。

薬物療法では、腸内の原因菌を減少させ、治癒までの期間を早
める目的で、抗菌剤が使用されます。抗菌剤投与時には、事前に
原因菌を同定することが理想ですが、便培養には2〜3日間が必
要なため、初期治療では腸管感染症の原因菌に幅広く効果が期
待できるホスホマイシンカルシウム(商品名:ホスミシンほか)やニ
ューキノロン系抗菌剤が処方されます。

また、旅行者下痢症をはじめとする細菌性下痢の患者では、原則
として腸管運動抑制作用を有する止瀉剤(下痢止め)の服用は避
けるべきです。細菌感染による下痢は、腸管内の細菌や毒素を体
外に排出する生体本来の防御反応なので、この反応を抑えてしま
うと、腸管内容物の停滞時間を延長し細菌の増殖や毒素の吸収
を促ということが考えられます。このため、細菌性下痢では。乳酸
菌製剤などの整腸剤が処方されることが一般的となっています。

また、旅行者下痢症を発症するかどうかは、個人の体質や免疫力
などの違いが関係しますが、胃酸分泌量との関連性も指摘されて
います。胃液は、その強力な酸によって、食物から消化管内に取
り込まれた細菌数を減少させる働きがあります。そのため、H2
ロッカーやプロトンポンプ阻害剤の服用者では、胃内pH が上昇
し、消化管感染症が起きやすい傾向にあります。これらの胃酸分
泌抑制剤を服用している患者さんが海外旅行をする場合には、
渡航先での食事や飲料に特に注意することが大事です。
                   (参考:NIKKEI Drug Infomation)

下痢の治療」「急性の下痢(症状と対処法)
市販胃腸薬の注意点」なども参考になさってください。

7月の「ひとこと」

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