漢方の特色

漢方の特色について、生薬問屋の刊行物に的を得て書かれた物が
ありましたので、前回の「再度ですが、漢方の考え方」と合わせ、お
読みいただきたいと思います。

1)漢方は病気によって何々の薬と、薬が定まっているのでな
  く、その病気の中でも人によって容態が違うにつれて処方を
  使い分けていく


多くの人は、漢方にも高血圧の薬とか、胃炎の薬とかが定まったも
のがあるように思っているが、実は漢方にはそうした定まった薬は
なく、高血圧に使う薬も20種類以上あって患者にどれが一番適し
ているかを判断して使う。だからたとえ病名がわかっていても容態
や性質がわからなければ処方の決めようがない。漢方薬を飲んだ
人が来て、知り合いに自分と同じ病気の人があるから、自分が飲
んだのと同じ薬を貰いたいといっても、その薬でよいとは限らない。
同じ人が同じ病気を繰り返してやっても、薬はその都度違うかもし
れないのである。

2)現代医学の治療の基準は「病名」だが、漢方医学の治療
  の目当ては「証」である


漢方医学では、ある処方を使えば治る容態をその処方の証と呼ん
でいる。たとえば五苓散の証といえば「のどがやたら渇き、小水の
出が少なく、あるいは吐いたり下ったり、むくんだりするもの」である。
こういう容態があれば、急性腸炎だろうが、急性腎炎だろうが、病
名は何でもかまわずに五苓散を使う。現代医学のほうは、原因や
身体の病的変化を主として病名をつけ、漢方医学のほうは治療に
使う処方の側から容態を見て証と呼んでいる。

3)治療中に処方が変わっていくことがある

一般に、ある病気に対する処方は一種類だけで始めから終わりま
でそれで通すように思われているが、漢方では必ずしもそうではな
く、ある処方を使ってその影響で病気の模様が変化してくればそれ
に応じて薬もまた変えていくようになる。無論治ってしまえば薬の必
要はないが、ある病状がとれて若干の症状が残ることもあり、別に
新しい症状が現れてくることもある。皆その場合に応じたそれに適
する処方に切り替えていくのである。
これを病状を主にして考えてみると、現代医学では病気をはじめ
から終わりまで一つのものに固定していると考えており、漢方医学
ではたとえ病名は同じでも病状は変化していくものと考えているこ
とになる。

4)ゲンノショウコ、センブリは民間薬で、漢方薬ではない。

民間薬はたいてい一色の薬だけを使うが、漢方薬は数種類混ぜた
処方になっている。民間薬は下痢とか喘息とか一つの症状や病名
を対象にして使うが、漢方ではどんな性質の下痢かを見分けて、病
名を対象にしないで具体的にその人の容態に応じて最も適する処
方を当てはめていく。

5)漢方薬にはまだ成分や薬理が現代医学的に明らかにされ
  ていないものが多いが、経験的には有効さが確認されてい
  る。

医者や科学者は化学的成分が明らかでないと、何だか信用ができ
ないように感じる。なるほど成分や効き方が知れればそれに越した
ことはないが、実際にはそれよりも効くか効かないかのほうが一層
重要な先決問題なのである。アヘンの中の成分モルヒネが発見さ
れたからアヘンが使われだしたのでなく事実はその逆で、アヘンが
効くから成分を研究してモルヒネを発見したのである。説明より前
前に経験的事実があり、この経験的事実が科学への出発点になっ
ている。
現代薬はほとんど一種類の化学成分から成り立っているが、薬草
は数種類の成分を含んでいて、しかもほんの一部しか成分の研究
はできていない。まして数種類の薬草を混ぜて使う段になると、成
分的には複雑極まるものになり、薬理もまた同様である。
だから現在のところでは効くという経験的事実を確認していくのが
一番良いことなのである。

6)現代医学は効く薬を捜し、漢方医学は薬の使い方を追求す
  る。


現代医学が次々と新しい薬を発見していこうとするのは、現代社会
の機構がそうさせるのだが、漢方では、古典はすでに完成されたも
のとだとの保守的な思想があって、ただ古典を祖述敷衍する行き
方をしているものだから材料の発展があまりなく、以下に既定の処
方をうまく効かせるか、結局処方の使い方が一番の研究課題にな
っている。実際に病気そのものはどんなに複雑多岐でも千の病気
に千の薬を使うのではなく、巧みに使えば百の薬でも千の病気に
対して事が足りるものでできるだけ少数の薬をもってできるだけ多
くの病気を治していこうとするのが漢方の立場である。

7)漢方医学の理念は自然に従うことだ。

四季、国土、その人の生まれながらの体質に従うのが理念で、こ
れに反すると病気も起こり治療もうまくいかない。早い話が、冬に
ビールを飲みすぎると冷えていけない。日本酒のほうが温まるとい
った具合であるが、日本酒も少量なら身体のためになるが飲みす
ぎは害になる。すべて「中」と「和」を尊び過不足を避けようとする。
何事も無理はしない。発汗剤を使うにしても出すぎないよう、出が
足りないのはいけないと細かな注意が必要である。
下剤でも十分に通じがついたら後は止める。汗が出すぎたり通じ
がつきすぎると疲労が加わり回復が遅れるからである。

8)病気は「病」と「気」

病気は読んで字のごとく「病」と「気」がくっついている。現代医学は
「病」のほうだけに力を入れて「気」のほうはあまり構わない。患者
がいろいろ具合の悪いことを訴えてもそれは「気」だとか神経だと
かいって相手にしてくれない。
漢方では「病」も「気」も同じように大切に取り扱い、「病」から「気」が
起こり、「気」から「病」が起こると考えて、病人の訴えを素直に聞い
て判断したうえ、身体の調和をはかるようにすれば「気」のほうもひ
とりでに治ってしまう。漢方とはこうした医学である。

                         (参考:和漢薬569号)

6月の「ひとこと」

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